2018 赤字と黒字のダイレクト自動車保険
ダイレクト自動車保険は1年契約とはいえ、貯蓄性の要素はないため、仮に撤退したとしても契約者に大きな不利益はないが、アメリカンホームのケースでは、撤退決定後に営業時間を縮小したり、サービスのスペックダウンがされたことを考えると、ある程度はその会社の財務状況・収益性をチェックしておいたほうがいい。
ダイレクト自動車保険各社の収益の状況をチェックするには、「コンバインド・レシオ」という指標がある。
損害率とは
契約者から受け取る保険料に対して、事故で支払われた保険金やその損害調査の経費など、出て行ったお金がどのくらいの割合になるかを示した数値で、ざっくり言えば、100%を超えると保険事業の部分で赤字ということになる。コンバインドレシオとは
「損害率(%)」+「事業費率(%)」の合計(%)の数値。ざっくりいえば合算値が100%を超えると赤字、下回れば黒字ということである。
ネット損保各社のコンバインドレシオの比較
2016年度のダイレクト自動車保険各社の損害率、事業費率、そしてその合算値であるコンバインドレシオを比較してみる。会社名 | 損害率 | 事業費率 | コンバインドレシオ |
---|---|---|---|
チューリッヒ | 84.0% | 22.9% | 106.9% |
アクサダイレクト | 59.2% | 24.7% | 83.9% |
ソニー損保 | 59.5% | 28.3% | 87.8% |
三井ダイレクト | 75.6% | 22.2% | 97.8% |
SBI損保 | 84.0% | 11.1% | 95.1% |
イーデザイン損保 | 60.6% | 28.9% | 89.5% |
セゾン(おとなの自動車保険) | 67.6% | 37.5% | 105.1% |
参考:東京海上日動 | 58.7% | 30.8% | 89.5% |
参考:損保ジャパン | 60.1% | 31.1% | 91.2% |
ダイレクト各社の概況はいくつかに分類できる。
・アクサダイレクト
損害率も低く、事業費率もテレビCMなどの広告宣伝活動が活発な割に20%台前半に抑えられていて高収益体質だ。
肝心の事故処理体制にコストをもっと掛けられる体力があるので、単に利益を上げるだけでなく顧客サービスの拡充にコストを掛けてほしいところだ。
・ソニー損保、イーデザイン損保
損害率も60%前後と一般的なレベルで、バランスがいい経営体質といえよう。
・チューリッヒ、三井ダイレクト
日本での営業年数が長く、安定した経営体質になっていないといけないにもかかわらず、この2社は損害率が異様に高い。
「損害率」は収入に対する支払った保険金の割合なので、「契約1件あたりの単価が安すぎる(価格設定)」か「想定以上に事故が多い顧客が加入してしまい、保険金の支払いが多い」かのいずれかだ。
チューリッヒはネット損保の中でさほど保険料水準は低くないので、おそらく事故多発契約を多く引き受けているのだろう。売上が伸び悩んでいるので契約を増やそうと事故リスクが高い属性であっても積極的に引き受けているのかもしれない。
収入を増やそうとテレビCMをこれ以上増やせば、事業比率が上がり一気に赤字転落だし、比較サイトだけで集客できるほど保険料は安くない。
手詰まり感があり、アメリカンホームのように撤退しなければいいのだが。
三井ダイレクトは単に保険料水準が安すぎることが原因のような気がする。いずれ値上げが必要になってくるだろう。
・SBI損保
事業費率の異様な低さが目立つ。これは次のことが考えられる。
−サービスやインフラにコストを掛けていない。
-保険料が安すぎる(リスクに見合っていない)
-比較サイト経由での集客に頼り、宣伝広告費を抑えている
事故処理などの損害サービスコストを必要以上に抑えれば、契約者の満足度が下がり、継続率が低下する上に悪い口コミが拡がるリスクがある。
・セゾン自動車(おとなの自動車保険)
そこそこダイレクト通販参入から年数が経ったにしては、事業費率が高い。これについては以下の要因が考えられる。
−自社の体力以上に広告宣伝費をかけている
また損害率も高い。
-保険料が安すぎる(高齢者中心の契約なのにそのリスクに見合った保険料を取り切れていない)
-客層が悪い(事故多発者が多い属性の契約が集まっている)
−保険金査定が甘い(支払いがザル)
赤字を垂れ流しながらでも契約規模の拡大を狙っていることが理由として考えられるが、どこかでこの赤字を解消するために値上げが必要になるだろう。
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